目を覚まし時計に目をやると、針はちょうど4時をまわったところだった。あれから藤木と私は激しく互いを求めあった。何度果てたかは覚えていない。ただ、何かを埋めるように交わい、果てた。そのまま藤木が意識を手放し、私も泥のように眠りについたのだ。そっと目をやると、私の腕の中では藤木が目を覚ます様子もなく、ぐっすりと眠っていた。ゆっくりと短い髪を梳くとしっとりと汗ばんでいた。
その時、電話のコール音が鳴った。つい今し方まで意識のなかったはずの藤木が1コールで素早く身を起こし、受話器に手を伸ばした。何処にそれだけの精神力が残ってたんだと正直呆れてしまう。

「俺が出る」
私はそう牽制すると藤木より先に素早く受話器を取った。

「もしもし」
「川中か」

電話の相手は叶だった。

「お楽しみのとこ悪いが仕事が済んだんでね、報告をいれさせてもらった。今はいいかな?」
「ああ。頼む」

叶の仕事の速さに驚くとともに、相変わらずな飄々とした話し方に私は少し安堵した。

「四組計七名様に気持ち良くお引取り願っておいたよ。五組目がいるかもしれんが、まぁ大丈夫だろう。殺人依頼が来てすぐ動ける奴はそういないからな。とりあえず今日にでもこっちに戻ってくれて構わないが。依頼主をどう処理するかは、まぁ、自分で考えてくれ」
「手間をかけさせたな」
「構わん。それが仕事だ。ま、今回は特急料その他を含めて割り増し料金も払っていただくがね」
「言い値を払わせてもらうよ」

上半身を起こした藤木がじっと電話の成り行きを見守っている。私が微笑み髪をそっと梳いてやると、困ったように微かに首を傾げた。



「そういえば叶、この部屋は誰が押さえたんだ?馬鹿な男を匿うには随分豪華な部屋だが」

ふと思いつき私は何気なく尋ねた。急ごしらえで見つけてきた部屋とは思えない豪華さに、昨夜からずっと気にはなっていたのだ。すると受話器の向こうで初めて叶が溜息をついた。

「おい川中、昨日が何の日か知らないわけじゃないだろう?そんな日にそんな場所を押さえるような気のきいたことが出来るのは俺に決まってるじゃないか」

叶の言葉に、私はいまさらになって宇野が何故あんなにも機嫌が悪かったのか漸く理解した。てっきり馬鹿な友に呆れているのだと思っていたが、それだけではなかったようだ。

「参ったな」
私は苦笑せざるをえなかった。

「かなり割り増し料金を払わなくては埋め合わせは出来そうにないな」
「まぁ、いいさ。昨日はイブだ。今日もクリスマスに変わりない」
「案外ロマンチストなんだな」
「殺し屋は皆ロマンチストなのさ」

そう言って笑うと、金魚好きな元殺し屋は一方的に受話器を置いてしまった。私は苦笑するしかなくて、そのまま受話器を戻した。



「叶さんですか?」
「ああ、とりあえずは片付いたらしい。しかし、困ったことになったよ。叶だけじゃなくキドニーにもかなりの貸しを作っちまった」
「?」
「この部屋は叶がキドニーのためにとってあった部屋らしい」
「ああ、だから」

藤木は得心がいったのか、複雑そうに苦笑した。

「宇野さんに今回の事、お礼を述べ難いですね」
「今日の話なんかしたらちゃかされたと思ってしばらくは口を聞かないぞ、きっと。ま、それも楽しそうだが」
「社長!」
「冗談だよ。あいつらにでかい貸しを作ってしまったな。まぁ今回のことは俺も大いに反省しなきゃな」

 そう言ってベッドに仰向けに寝転ぶと上から藤木が困ったような笑顔で覗き込んできた。

「宇野さんが言われたんです。私に社長を連れてこいと。そうしなければ社長は自分も最前線に立とうとして、自分だけ身を潜めることなどしないだろうと。私は貴方に隠れてもらって自分でなんとかするつもりでした。でもきっと、その通りだったでしょうね、二人で此処に来なければ」

 藤木は微笑みながらも微かに悔しそうに眉を顰めた。

「私は貴方のことになるとどうも冷静でいられない。しかも私は自分の力を過信し過ぎていたようです。自分一人で社長を守りきれると。反省しなくてはいけませんね」
「二人で反省してたら世話ないよな」

 私はそう笑うと藤木の肩を掴み一気に躯を反転させた。小柄な躯が私の下にすっぽりと収まり、先ほどまで見上げていた瞳を見下ろすと私は微笑んだ。

「ついでに言わせてもらうが、藤木が俺を守る必要なんてないんだよ。自分の落とし前は自分でつける。箱の中に入れて置くなよ、俺を」

 何か言いたそうな藤木の唇を上から塞ぐ。濃厚な口付けを交わした後、微かに赤みを増した藤木の耳に唇を寄せ、囁いた。

「叶によると、今日もクリスマスに変わりないそうだ。チェックアウトにはまだしばらく時間がある。十分楽しもうじゃないか」

 私の言葉に今度は心底呆れたままの表情で藤木が「しかたのない人だ」とため息まじりに呟いた。

「知ってる」

 呆れ返っている藤木にそう言うと、私は再度その気にさせるべく、その首元に唇を落とした。




fin.